個人事業主として活動する中で、「これは経費として計上できるのか?」という疑問は日常的に発生します。適切な経費計上は節税効果を高める一方で、間違った処理は税務調査でのリスクを招く可能性があります。
本記事では、個人事業主が経費として計上できるものと計上できないものを、具体例とともに詳しく解説します。2025年の最新情報とインボイス制度への対応も含めて、実践的な知識をお伝えします。
Contents
経費計上の基本原則
個人事業主が経費として計上できるのは、事業に直接関連する支出のみです。税法上、経費として認められるためには以下の条件を満たす必要があります。
経費として認められる条件
- 事業の遂行に必要な支出であること
- 事業所得を得るために要した支出であること
- 社会通念上妥当な金額であること
- 適切な証拠書類(領収書・レシート等)があること
この基本原則を踏まえて、具体的にどのようなものが経費として認められるかを見ていきましょう。
経費として計上できるもの一覧
1. 消耗品費
- 文房具(ボールペン、ノート、封筒など)
- コピー用紙、プリンターインク
- 清掃用品(事務所で使用するもの)
- 10万円未満のパソコン・プリンター
- 事業用の制服・作業着
2. 交通費・旅費
- 取引先への訪問交通費
- 出張時の宿泊費・交通費
- 事業に関連するセミナー参加の交通費
- 駐車場代(事業利用分)
- 高速道路料金(事業利用分)
3. 通信費
- 事業用携帯電話・スマートフォンの料金
- インターネット接続料金(事業利用分)
- 郵送費・宅配便料金
- FAX送信料
4. 光熱費
- 事務所の電気代
- 事務所のガス代
- 事務所の水道代
- 自宅兼事務所の場合は家事按分した分
5. 賃借料
- 事務所の家賃
- 事業用設備のリース料
- 駐車場代(事業用)
- 倉庫代
6. 修繕費
- 事業用設備の修理代
- 事務所の小規模な修繕費
- パソコンの修理費
7. 減価償却費
- 10万円以上の事業用設備
- 事業用車両
- 事業用不動産
8. 外注費
- 専門業務の外部委託費
- デザイン制作費
- システム開発費
- 翻訳費
9. 広告宣伝費
- ホームページ制作費
- 名刺印刷費
- チラシ・パンフレット制作費
- インターネット広告費
- 展示会出展費
10. 接待交際費
- 取引先との食事代
- 贈答品代
- 年末年始の挨拶回り費用
経費として計上できないもの一覧
1. 生活費・私的支出
- 家族の生活費
- 私的な食事代
- 私的な旅行費
- 私的な娯楽費
- 健康診断費(事業と関連性が薄い場合)
2. 税金・保険料(一部例外あり)
- 所得税・住民税
- 個人事業税(事業所得の計算上は経費にならない)
- 国民健康保険料
- 国民年金保険料
- 生命保険料(事業用でない場合)
3. 家事関連費
- 家庭用品の購入費
- 家族の医療費
- 子どもの教育費
- 家庭の食費
4. 罰金・違反金
- 交通違反の罰金
- 税務上の加算税・延滞税
- 各種法令違反による罰金
5. 借入金の元本返済
- 事業用借入金の元本部分
- 住宅ローンの元本部分
経費にできるか迷いやすいグレーゾーンアイテム10選
個人事業主が経費計上で最も悩むのが、事業用と私的用の境界が曖昧なアイテムです。以下に代表的なグレーゾーンアイテムとその判断基準を示します。
1. 自宅兼事務所の家賃
判断基準: 事業で使用する面積や時間の割合で家事按分 計上方法: 全体の30%を事業用として使用している場合、家賃の30%を経費として計上可能
2. 携帯電話・スマートフォン料金
判断基準: 事業での使用頻度や通話時間 計上方法: 事業用50%、私的用50%の場合、料金の50%を経費計上
3. 自動車関連費用
判断基準: 事業での使用距離や使用日数 計上方法: 年間走行距離の70%が事業用の場合、車両費の70%を経費計上
4. パソコン・タブレット
判断基準: 事業での使用頻度と用途 計上方法: 主に事業用として使用する場合は全額経費、私的利用も多い場合は按分
5. 書籍・雑誌代
判断基準: 事業に関連する専門書籍かどうか 計上可能: 業界専門誌、技術書、資格取得関連書籍 計上困難: 一般的な小説、娯楽雑誌
6. セミナー・研修費
判断基準: 事業の発展に直接寄与するかどうか 計上可能: 業界関連セミナー、スキルアップ研修、資格取得講座 計上困難: 趣味的な教養講座、直接関連性が薄い分野の研修
7. 健康診断・人間ドック
判断基準: 事業継続のための必要性 計上可能: 法定健康診断、事業に必要な健康管理 計上困難: 一般的な健康診断、美容目的の検査
8. 服装・身だしなみ費用
判断基準: 事業用の制服や作業着かどうか 計上可能: 制服、作業着、安全靴、事業用スーツ 計上困難: 普段着、高級ブランド品、美容院代
9. 会食・接待費
判断基準: 事業上の必要性と相手の関係性 計上可能: 取引先との商談を兼ねた食事、顧客接待 計上困難: 友人との私的な食事、家族との食事
10. 保険料
判断基準: 事業継続のための必要性 計上可能: 事業用の損害保険、業務上の賠償責任保険 計上困難: 生命保険、医療保険(事業用でない場合)
税務調査で指摘される”NG経費”の傾向とは?
税務調査では、以下のような経費が問題となることが多いです。事前に理解しておくことで、適切な経費計上を心がけましょう。
よく指摘される問題経費
1. 家事関連費の不適切な按分
- 実際の使用状況と按分率が大きく乖離している
- 按分の根拠が不明確
- 按分率が年々変動している理由が説明できない
2. 接待交際費の範囲超過
- 私的な食事を事業用として計上
- 参加者が事業と関連性がない
- 金額が社会通念上妥当でない
3. 旅費交通費の私的利用
- 観光目的の旅行を出張として計上
- 家族旅行に事業要素を無理に含めた計上
- 通勤費を事業用交通費として計上
4. 消耗品費の範囲拡大
- 家庭用品を事業用として計上
- 高額商品を消耗品として処理
- 私的使用の明らかな商品の計上
税務調査対策のポイント
証拠書類の整備
- 領収書・レシートの保管
- 事業関連性を示すメモの添付
- 取引先との関係がわかる資料の保管
按分根拠の明確化
- 按分率の計算根拠を文書化
- 使用実態の記録を残す
- 按分方法の一貫性を保つ
適切な会計処理
- 勘定科目の正確な使い分け
- 計上時期の適正化
- 継続性の原則の遵守
家事按分を正しく行うための基準
自宅兼事務所や、事業と私的の両方で使用する資産について、家事按分は避けて通れない処理です。適切な按分を行うための基準を解説します。
面積による按分
適用場面: 自宅兼事務所の家賃、光熱費、火災保険料など
計算方法:
- 事業用面積 ÷ 総面積 = 按分率
- 例:総面積100㎡、事業用20㎡の場合 → 按分率20%
注意点:
- 専用使用部分と共用使用部分を明確に区分
- 使用時間も考慮した按分が必要な場合がある
時間による按分
適用場面: 携帯電話、インターネット、車両など
計算方法:
- 事業使用時間 ÷ 総使用時間 = 按分率
- 例:1日8時間事業使用、総使用時間12時間の場合 → 按分率約67%
記録方法:
- 使用時間の記録簿を作成
- 1か月程度の実績を基に按分率を決定
使用頻度による按分
適用場面: 車両、通信機器、事務用品など
計算方法:
- 事業使用回数 ÷ 総使用回数 = 按分率
- 走行距離ベースの按分も可能
記録方法:
- 使用記録簿の作成
- 走行記録(車両の場合)の管理
按分率決定の実務的アプローチ
1. 実態調査の実施
- 1か月程度の使用実態を詳細に記録
- 季節変動がある場合は複数月で調査
- 記録に基づいて合理的な按分率を決定
2. 按分率の見直し
- 年1回程度の見直しを実施
- 事業規模の変化に応じて調整
- 見直しの理由を文書化
3. 証拠書類の整備
- 按分根拠を示す計算書の作成
- 使用実態を示す記録の保管
- 按分方法の継続性を確保
確定申告でトラブルにならないための帳簿整理術
適切な帳簿整理は、確定申告をスムーズに行い、税務調査でのトラブルを避けるために重要です。
日常的な帳簿管理のポイント
1. リアルタイムでの記帳
- 支出が発生した都度記帳
- 月末には必ず全取引を記帳完了
- 記帳漏れを防ぐためのチェック体制
2. 証拠書類の整理
- 領収書・レシートの即座整理
- 月別・勘定科目別の分類
- 電子データとしての保管も検討
3. 勘定科目の統一
- 勘定科目の使い分けルールを作成
- 迷った場合の判断基準を明確化
- 年度内での一貫性を保持
確定申告準備のチェックリスト
申告書作成前の準備
- [ ] 全ての領収書・レシートの整理完了
- [ ] 帳簿記帳の完了確認
- [ ] 減価償却資産の確認
- [ ] 家事按分の計算完了
- [ ] 前年度との比較検証
申告書作成時の注意点
- [ ] 所得金額の計算確認
- [ ] 各種控除の適用確認
- [ ] 税額計算の検証
- [ ] 添付書類の準備完了
- [ ] 提出期限の確認
申告後の管理
- [ ] 申告書控えの保管
- [ ] 帳簿・証拠書類の保管
- [ ] 税務調査への備え
- [ ] 翌年度の準備開始
帳簿保存の法的要件
保存期間
- 帳簿:7年間
- 領収書・請求書:7年間
- 決算書・申告書:7年間
保存方法
- 紙媒体での保存が基本
- 電子帳簿保存法に基づく電子保存も可能
- 改ざん防止措置の実施
整理方法
- 年度別の整理
- 勘定科目別の整理
- 検索しやすい分類方法の採用
最新インボイス制度への対応も解説
2023年10月から開始されたインボイス制度は、個人事業主の経費計上にも大きな影響を与えています。
インボイス制度の基本概要
適格請求書(インボイス)の要件
- 適格請求書発行事業者の氏名・名称
- 登録番号
- 取引年月日
- 取引内容
- 税率ごとに区分した合計額
- 適用税率
- 消費税額
経費計上への影響
1. 仕入税額控除の要件変更
- 適格請求書の保存が必要
- 登録事業者以外からの仕入れは控除不可
- 経過措置による段階的な控除率の縮小
2. 少額特例の活用
- 1万円未満の取引は帳簿保存のみで控除可能
- 2029年9月30日までの特例措置
- 対象事業者の制限あり
3. 登録事業者の確認方法
- 国税庁の適格請求書発行事業者公表サイトでの確認
- 取引先の登録状況の定期的な確認
- 未登録事業者との取引方針の検討
実務対応のポイント
請求書・領収書の確認
- 適格請求書の要件を満たしているか確認
- 登録番号の記載があるか確認
- 税率・税額の記載が正確か確認
取引先との調整
- 取引先の登録状況の確認
- 未登録事業者との取引条件の見直し
- 価格交渉への影響の検討
システム・運用の見直し
- 請求書発行システムの対応
- 経理システムの対応
- 社内運用フローの見直し
2025年の税制改正ポイント
2025年度の税制改正で、個人事業主の経費計上に関わる主な変更点を整理します。
電子帳簿保存法の完全施行
2024年1月からの変更点
- 電子取引データの電子保存が完全義務化
- 紙出力による保存の廃止
- 検索要件の厳格化
対応が必要な事項
- 電子取引データの保存システムの整備
- 検索機能の確保
- 改ざん防止措置の実施
少額減価償却資産の特例
制度の概要
- 30万円未満の減価償却資産を一括経費計上可能
- 年間300万円までの上限設定
- 適用期間の延長
活用のポイント
- 設備投資のタイミング調整
- 年間上限額の管理
- 適用要件の確認
家事関連費の取扱い明確化
明確化された基準
- 事業関連性の判断基準
- 按分方法の統一化
- 証拠書類の要件
実務への影響
- 按分根拠の文書化が重要
- 継続性の原則の徹底
- 証拠書類の整備強化
経費計上で失敗しないための実践チェックリスト
最後に、日常的な経費計上で失敗しないためのチェックリストを提供します。
支出時のチェックポイント
□ 事業関連性の確認
- その支出は事業の遂行に必要か?
- 事業所得を得るために必要な支出か?
- 私的利用の要素は含まれていないか?
□ 金額の妥当性確認
- 社会通念上妥当な金額か?
- 同業他社と比較して異常に高額でないか?
- 事業規模に見合った金額か?
□ 証拠書類の確保
- 領収書・レシートを受け取ったか?
- 宛名は正しく記載されているか?
- 但し書きは適切に記載されているか?
記帳時のチェックポイント
□ 勘定科目の正確性
- 適切な勘定科目で処理しているか?
- 前年度と同じ基準で処理しているか?
- 迷った場合の判断基準に従っているか?
□ 按分計算の正確性
- 按分率の計算は正しいか?
- 按分根拠は明確になっているか?
- 前年度と大きく変わっていないか?
□ 計上時期の適正性
- 発生主義で計上しているか?
- 期間対応は適切か?
- 前払費用・未払費用の処理は正しいか?
年度末のチェックポイント
□ 経費計上の総合確認
- 全ての経費に事業関連性があるか?
- 私的支出が混入していないか?
- 計上漏れはないか?
□ 証拠書類の整備
- 全ての領収書・レシートが整理されているか?
- 按分根拠の資料は保管されているか?
- 必要に応じて補足資料を作成しているか?
□ 申告準備の完了
- 帳簿記帳は完了しているか?
- 決算書の作成は完了しているか?
- 申告書の作成準備は整っているか?
まとめ
個人事業主の経費計上は、適切な知識と継続的な管理が成功の鍵となります。本記事で紹介した内容を参考に、以下のポイントを心がけてください:
- 事業関連性を常に意識する: 全ての支出において、事業との関連性を明確に説明できるようにしておく
- 証拠書類を確実に保管する: 領収書・レシートの保管と、按分根拠の文書化を徹底する
- 継続的な記帳を実践する: 日常的な記帳により、確定申告時の負担を軽減する
- 最新制度への対応を怠らない: インボイス制度や税制改正への対応を継続的に行う
- 専門家との連携を活用する: 迷った場合は税理士等の専門家に相談し、適切な処理を確保する
適切な経費計上により、合法的な節税効果を得ながら、税務調査でのトラブルを避けることが可能です。日頃から正確な記帳と証拠書類の管理を心がけ、健全な事業運営を続けていきましょう。
本記事の内容は2025年1月時点の税法に基づいています。税制改正により内容が変更される可能性があるため、最新の情報は国税庁のホームページや税理士にご確認ください。